お腹の上下でわかる!呼吸のポンプ「横隔膜」のふしぎ
はじめに:息をするたび動くお腹のふしぎ
私たちは、普段意識することなく息をしています。寝ている間も、遊んでいる間も、おしゃべりをしている間も、ずっと呼吸は続いています。息を吸ったり吐いたりするたびに、お腹が膨らんだりへこんだりすることに気づいているでしょうか?
このお腹の動きこそが、体の内側にある大切な器官が頑張って働いている証拠です。今回は、息をするためのポンプのような働きをする「横隔膜(おうかくまく)」のふしぎについて、自分自身の体を観察したり、簡単なモデルを作ったりしながら探検してみましょう。
アクティビティの目的
この活動を通して、以下のことを体験的に学びます。
- 息を吸うとき、吐くときにお腹がどのように動くかを観察する。
- 呼吸の動きに「横隔膜」という筋肉が大きく関わっていることを知る。
- 横隔膜がポンプのように動くことで、肺に空気が入ったり出たりする仕組みを理解する。
対象となる学年目安
小学3年生~高学年
(カッターナイフを使用する工程があるため、低学年の場合は必ず保護者や教員が主体となって作業を進めてください)
準備物
- 空のペットボトル(500mlまたは1L程度) 1本
- 大きい風船 1個 (ペットボトルの底を覆えるくらいの大きさ)
- 小さい風船 2個 (ペットボトルの口に入る大きさ)
- ストロー 2本
- Y字ストロー 1本 (なければ普通のストロー2本をテープで繋いでもOK)
- カッターナイフ または よく切れるハサミ (ペットボトルを切るため)
- ハサミ
- 粘土 または ビニールテープ
- セロハンテープ
- (あれば)油性ペン
活動の手順
ステップ1:自分のお腹の動きを観察してみよう
- 静かに椅子に座り、片方の手をお腹に当ててみましょう。
- ゆっくりと息を吸ってみてください。お腹がどう動くか感じてみましょう。
- 次に、ゆっくりと息を吐いてみてください。お腹がどう動くか感じてみましょう。
- 今度は、寝転がった状態でも同じように観察してみましょう。座っている時と何か違いはありますか?
- 速く呼吸したり、深く呼吸したりした場合の、お腹の動きの違いも観察してみましょう。
ステップ2:呼吸モデルを作ってみよう
- ペットボトルの底から5cmくらいのところを、カッターナイフかハサミで切り取ります。(この作業は大人が行うか、子供が行う場合は必ず大人が付き添ってください。)
- 小さい風船2個の口を、Y字ストローの分かれている部分にそれぞれセロハンテープでしっかり取り付けます。これが「肺」と「気管支」になります。
- ペットボトルのキャップの中央に、ストローが通るくらいの穴を開けます。(この作業も大人が行うか、付き添ってください。)
- Y字ストローのもう一方の端(Yが集まっている方)を、ペットボトルのキャップの穴に通します。小さい風船はペットボトルの中に入っている状態です。
- キャップをペットボトル本体の口にしっかりと閉めます。キャップの穴とストローの隙間を、粘土やビニールテープで完全に塞ぎます。空気が漏れないようにしっかり塞ぐのがポイントです。
- 大きい風船の口の部分をハサミで少しだけ切り落とします。(切りすぎると破れやすくなるので注意)
- 切り落とした大きい風船を、ペットボトルの切り取った底にかぶせるように、ピンと張りながら取り付けます。これが「横隔膜」の役割をします。セロハンテープなどで固定すると外れにくいです。
これで呼吸モデルの完成です!油性ペンでペットボトルに「胸郭」、中の風船に「肺」、底の風船に「横隔膜」と書くと分かりやすいでしょう。
ステップ3:モデルを動かして呼吸の仕組みを探検!
- 完成したモデルの底にある大きい風船(横隔膜)を、下向きにゆっくり引っ張ってみましょう。ペットボトルの中の小さい風船(肺)はどうなりますか?
- 次に、引っ張っていた大きい風船(横隔膜)をゆっくり緩めてみましょう。小さい風船(肺)はどうなりますか?
- 今度は、大きい風船を素早く引っ張ったり緩めたりしてみてください。肺の風船の動きはどう変わりますか?
ステップ4:体とモデルを比べて考えてみよう
- ステップ1で観察した自分のお腹の動きと、ステップ3で動かしたモデルの横隔膜の動きを比べてみましょう。息を吸ったときのお腹の動きは、モデルの横隔膜を引っ張ったときの動きと似ていませんか?
- 息を吐いたときのお腹の動きは、モデルの横隔膜を緩めたときの動きと似ていませんか?
- お腹(横隔膜)が下に動くと、肺の風船が膨らみました。これは、ペットボトル(胸郭)の中の空間が広がり、外から空気が流れ込んだことを示しています。
- お腹(横隔膜)が上に動くと、肺の風船がしぼみました。これは、ペットボトルの中の空間が狭くなり、中の空気が押し出されたことを示しています。
このように、私たちの体では、横隔膜が上下に動くことで、肺が膨らんだりしぼんだりして、空気を吸ったり吐いたりしているのです。まるでポンプのような働きですね。
活動のポイント
- 自分のお腹の観察: 最初はお腹の動きを意識しにくい場合があります。背中を壁にもたれて座ったり、床に寝転がったりすると、お腹の動きがより感じやすくなります。「お腹が少し前に出るかな?」「へこむかな?」など、具体的にどこがどう動くか尋ねてみましょう。
- モデル作成: ペットボトルの底を切る作業は、大人または大人の管理下で行ってください。風船とストローの接続部、キャップとストローの隙間は、空気が漏れないようにしっかり塞ぐことがモデルをうまく動かすための重要なポイントです。粘土を使う場合は、隙間にしっかりと押し込むようにしましょう。
- モデルと体の比較: モデルが完成したら、「このペットボトルは何を表しているかな?」「中の風船は?」「底の風船は?」と問いかけ、体のどの部分に対応しているかを確認しましょう。そして、モデルの動きと実際の体の動きを対応させて理解を深めます。「モデルの横隔膜を下に引っ張ると、肺が膨らんだね。息を吸うとき、君のお腹(横隔膜)はどっちに動いているかな?」のように問いかけると良いでしょう。
- 横隔膜の働き: 横隔膜は、胸とお腹の間にある膜状の筋肉です。息を吸うときに収縮して下に下がり、肺が広がるスペースを作ります。息を吐くときは弛緩して上に上がり、肺を縮ませて空気を押し出します。「ポンプ」や「ピストン」に例えて説明すると、子供にも働きがイメージしやすいかもしれません。
安全上の注意点
- 刃物の取り扱い: ペットボトルを切る際のカッターナイフやハサミの使用には、細心の注意が必要です。必ず大人が行うか、大人が付き添って安全な使い方を指導してください。
- 風船の誤飲: 小さい風船は、口に入れたり誤って飲み込んだりすると危険です。特に小さなお子さんがいる環境では十分注意し、使用後は子供の手の届かない場所に片付けてください。割れた風船の破片も同様に危険です。
- 工作中の怪我: ハサミやストローの先端などで怪我をしないよう、落ち着いて作業を行いましょう。
期待される教育効果
このアクティビティは、普段意識しない「呼吸」という生理現象の仕組みを、手を使ってモデルを作り、動かすという体験を通して学ぶことができます。自分のお腹の動きとモデルの動きを結びつけることで、体の内部で行われていることへの興味関心を高めます。横隔膜という特定の器官の働きを知ることで、体の構造や機能についての理解を深めることができます。また、モデル化を通して複雑な仕組みを単純化して考える力や、観察力、分析力を養うことにも繋がります。
応用例や発展的な活動
- 他の呼吸モデル: ペットボトルだけでなく、ビニール袋や箱など、他の材料を使って呼吸モデルを作ってみる。材料を変えるとどのように動きが変わるか比較する。
- 呼吸の速さの変化: 軽い運動をした後など、呼吸が速くなったときに、お腹の動きはどう変わるか観察してみる。運動量と呼吸の関係について考える。
- 他の動物の呼吸: 魚のエラ呼吸や昆虫の気門呼吸など、他の動物がどのように呼吸しているかを調べて、人間の呼吸と比較してみる。
- 胸式呼吸と腹式呼吸: 胸だけを動かす呼吸(胸式呼吸)と、お腹を大きく動かす呼吸(腹式呼吸)の違いを体験し、それぞれどのようなときに使われるか(例:歌うとき、リラックスしたいときなど)について考える。
この活動を通して、身近な「呼吸」のふしぎに触れ、自分の体が持つ素晴らしい機能について学ぶきっかけとなることを願っています。