筋肉はペアで働く?腕をさわって学ぶ主動筋と拮抗筋のふしぎ
私たちの体は、驚くほどスムーズに動かすことができます。歩いたり、物を持ち上げたり、字を書いたり、様々な動きが可能ですね。これらの動きは、骨と骨が関節でつながり、その周りにある「筋肉」が骨を引っ張ることで生まれています。
では、例えば腕を曲げたり伸ばしたりするとき、筋肉はどのように働いているのでしょうか?筋肉はまるでゴムのように、縮んだり伸びたりすることで力を発揮しますが、その時、筋肉は単独で動いているのでしょうか?それとも、誰かと協力しているのでしょうか?
今回の「からだ探検隊」では、自分の腕をさわって観察することで、腕の曲げ伸ばしに隠された筋肉のふしぎな働き、「ペアで働くひみつ」を探検します。このアクティビティを通して、筋肉が協調して働くことの大切さを体験的に学んでいきましょう。
アクティビティの目的
この活動を通して、以下の点を体験的に学びます。
- 筋肉が収縮(ちぢむ)と弛緩(ゆるむ)を繰り返すことで、骨を動かしていること。
- 腕を曲げる筋肉と伸ばす筋肉が、それぞれ逆の働きをすることで、腕のスムーズな曲げ伸ばしが可能になっていること。
- 筋肉には、ある動きの主役となる筋肉(主動筋)と、その動きを助けたり邪魔したりしないように反対の働きをする筋肉(拮抗筋)という「ペア」の関係があること。
対象となる学年目安
小学3年生〜6年生
準備物
- 自分の腕
- (あれば)鏡:自分の腕の動きや筋肉の様子を客観的に観察できます。
- (あれば)記録用の紙とペン:気づいたことや感想を書き留めるのに使います。
活動の手順
さあ、実際に自分の腕をさわって、筋肉の働きを探検してみましょう。
- 片方の腕をリラックスさせる: まず、利き腕ではない方の腕(例えば左腕)をリラックスさせて、軽く曲げたり伸ばしたりしてみましょう。
- 腕の前側をさわる: もう片方の手(例えば右手)で、リラックスさせた腕のひじから肩にかけての前側(力こぶができるあたり)をさわってみましょう。どんな感触ですか?柔らかいですね。
- 腕をゆっくり曲げてみる: さわっている場所(腕の前側)に注意しながら、ゆっくりとひじを曲げていき、できるだけ腕を縮めて「力こぶ」を作ってみましょう。さわっていた場所の感触はどう変わりましたか?硬く、盛り上がってきたのがわかると思います。これが筋肉が収縮(しゅうしゅく)してちぢんだ状態です。
- ゆっくり腕を伸ばしてみる: 今度は、さわっている場所をそのままに、ゆっくりとひじを伸ばしてみましょう。さっき硬かった筋肉は、どうなりましたか?柔らかく、元に戻ったのがわかるでしょう。これが筋肉が弛緩(しかん)してゆるんだ状態です。
- 腕の後ろ側をさわる: 次に、リラックスさせた腕の後ろ側(二の腕のあたり)をさわってみましょう。ここは、腕を伸ばすときに主に使われる筋肉(上腕三頭筋)がある場所です。
- 腕をゆっくり曲げたり伸ばしたりしながら両側をさわる: 腕の前側と後ろ側を同時にさわれるように手を置いてみましょう。そして、ゆっくりと腕を曲げたり伸ばしたりを繰り返してみましょう。
- 腕を曲げるとき、腕の前側(力こぶ)の筋肉は硬くなりますが、腕の後ろ側の筋肉はどうでしょうか?(柔らかくなるはずです)
- 腕を伸ばすとき、腕の後ろ側の筋肉は硬くなりますが、腕の前側の筋肉はどうでしょうか?(柔らかくなるはずです)
どうでしょう?腕を曲げたり伸ばしたりするたびに、腕の前側の筋肉と後ろ側の筋肉が、交互に硬くなったり柔らかくなったりしているのが感じられたでしょうか?
活動のポイント
- 「硬い=筋肉がちぢんでいる(収縮している)」、「柔らかい=筋肉がゆるんでいる(弛緩している)」ということを、子供たちが体感を通じて理解できるように声かけをしましょう。
- 腕を曲げるときに硬くなる前側の筋肉(主に上腕二頭筋)と、腕を伸ばすときに硬くなる後ろ側の筋肉(主に上腕三頭筋)が、それぞれ逆の働きをしている「ペア」であることに気づかせるのがポイントです。「前が頑張っているとき、後ろはお休みしているのかな?」「後ろが頑張っているとき、前はどうしているかな?」などと問いかけてみましょう。
- この「ペア」の関係がとても大切であることを伝えましょう。腕を曲げるときに後ろ側の筋肉が一緒に硬くなってしまったら、動きがスムーズにできなかったり、痛みを感じたりする可能性があることを説明すると、より理解が深まります。
- このペアのうち、ある動きの主役となる筋肉を「主動筋(しゅどうきん)」、その反対の働きをする筋肉を「拮抗筋(きっこうきん)」と呼ぶことを、簡単な言葉で紹介しても良いでしょう。「腕を曲げるときは、前の筋肉が主動筋、後ろの筋肉が拮抗筋になるんだね」「腕を伸ばすときは、後ろの筋肉が主動筋、前の筋肉が拮抗筋になるんだね」のように説明できます。
安全上の注意点
- 自分の体をさわるだけの安全な活動ですが、筋肉をさわる際に無理な力を入れたり、つねったりしないように注意しましょう。
- 腕の曲げ伸ばしも、ゆっくりと無理のない範囲で行い、関節を痛めないように気をつけましょう。
期待される教育効果
- 筋肉が収縮と弛緩によって骨を動かすという、運動器の基本的な仕組みを体感として理解できます。
- 体の動きが、単一の筋肉だけでなく、複数の筋肉が協力したり、互いに逆の働きをしたりすることで成り立っていることを学びます(協調性の理解)。
- 自分の体を注意深く観察し、その仕組みに疑問を持ち、探求する姿勢を育むことができます。
- 「主動筋」と「拮抗筋」といった、より専門的な知識への興味関心を高めるきっかけとなります。
応用例や発展的な活動
- 他の関節(ひじ、ひざ、足首など)を動かしたときに、どの筋肉が硬くなるか、柔らかくなるかを探検してみましょう。腕の筋肉と同様に、ペアで働いている筋肉が見つかるはずです。
- ペットボトルに水や砂を入れて重りを作り、それを持って腕を曲げ伸ばししてみましょう。重いものを持つと、筋肉がより強く収縮する(硬くなる)のが感じられるか観察してみましょう。ただし、重すぎないように注意が必要です。
- インターネットや図鑑を使って、体の様々な場所にある筋肉や、主動筋・拮抗筋の関係について詳しく調べてみましょう。腕以外にも、足や背中など、全身にたくさんの筋肉があることや、複雑な動きにはさらに多くの筋肉が関わっていることがわかります。
まとめ
今回の活動では、腕を曲げたり伸ばしたりする身近な動きに、腕の前側と後ろ側の筋肉が「ペア」になって協力して働くという、からだのふしぎな仕組みが隠されていることを発見しました。腕を曲げるときは前側の筋肉が頑張り、そのとき後ろ側の筋肉は力を抜いて邪魔をしません。逆に腕を伸ばすときは後ろ側の筋肉が頑張り、前側の筋肉が力を抜きます。
このように、私たちの体の中では、たくさんの筋肉がお互いに助け合い、時にはブレーキ役になったりしながら、驚くほどスムーズで力強い動きを生み出しているのです。
ぜひ、日常生活の様々な動きの中でも、「今、どの筋肉が働いているのかな?」「あの動きには、どんな筋肉のペアが必要かな?」といった視点で自分の体や周りの人の動きを観察してみてください。からだが持つ素晴らしい機能への理解が、さらに深まるはずです。